††(ドワーフの王ギュンター視点)

先ほどまで握りしめていた青年の温かい手の感触がいまだに残っている。

――いや、不死族の魔族の手が温かいというのも奇妙な話か。

恐らくはギュンターの錯覚なのだろう。

だが、その瞳は生気に満ちていた。

温かい人の心が垣間見れた。

このような時代、この戦乱の世には珍しい瞳を持った青年だった。

あのような目をする人物を見るのは久しぶりであった。

この男の言葉ならば信じてみよう。

そう思えるほどに、あの青年の言葉には重みがあった。

短い会談であったが、少なくともこの男の夢に付き合う価値はある。

そう思った。

『ドワーフの王国の再興』

長年、あの監獄に閉じ込められていたが、そのことを考えなかった日などない。

昼は、それぞれに職を持ったドワーフたちが汗水垂らし働く。

鍛冶屋は槌を打ち付け、石工はノミを振るう。

喧噪と活気に満ちた街並み。

夕刻になれば仕事を止め、皆、家々に集まり酒を酌み交わす。

数十年前まではそこにあった光景を取り戻せるかもしれない。

あの青年にはそんな王国を再び蘇らせてくれるというのだ。

彼の言葉に興奮を覚えないと言えば嘘になる。

王という立場に未練はなかったが、国には未練があった。

またドワーフたちが集まる国を作りたかった。

例えその国の玉座に座っている人物が自分でなくても良い。

ドワーフたちが陽気に笑いながら暮らせる国が作れるのならば、己の身などどうなっても良かった。

早く。

早く、あの光景が見たい。

ドワーフたちの陽気な笑顔が溢れる街を、彼らの笑い声がもう一度聞きたかった。

あの青年ならば、アイクと名乗ったあの青年ならば、その夢を実現させてくれるかもしれない。

そう思わせるなにかが彼にはあるのだ。

戦場であるローザリアを突っ切り、イスマスに攻め入る剛胆さ。

混乱に乗じて自分を救いさる手際の良さ。

それにあの知識量も驚くべきものだった。

旋盤(せんばん)――、聞いたこともない言葉だったが、轆轤(ろくろ)、それと鋳型(いがた)の技術を転用すれば、ネジの量産も可能だろう。

それすなわち、火縄銃という奴の大量生産も可能となる。

彼が指揮する不死旅団にその武器が渡れば、戦局は一変するだろう。

現在、拮抗している人間と魔族のバランスが、大きく魔族に傾くことになるかもしれない。

ギュンターは、彼の純粋なその瞳と、才能に賭けてみることにした。

鉱物神グスタブ、どうか、かの若者に祝福をあれ。

そう祈りながら、各国に散らばっているドワーフの職人たちへ手紙を書いた。

Tap the screen to use advanced tools Tip: You can use left and right keyboard keys to browse between chapters.

You'll Also Like